色の布を作る

今河織物は御召の機屋として創業しました。およそ40年前から木屋太の名前で帯を作り始めて、帯の機屋としても評価をいただいてきました。実は創業からずっと御召を作り続けています。

西陣織と言っても帯と着物では作り方が全く異なります。経糸の本数、使用する糸の種類、織手さんに要求される技術も異なり、機屋の物づくりに対する考え方から違うように思います。私の色へのこだわり方も御召の機屋としての気質かもしれません。

写真はコート・羽織用の生地になります。マスクカバーにも使用しました。今回のマスクカバーがきっかけで、この生地が初めての木屋太の製品になる方もいらっしゃるかもしれません。弊社の物づくりへの想いが詰まっている生地になります。
この織物は複数色の経糸を使い、時には単独で、時には異なる色糸を同時に動かすことで、単色のみならず中間色を作って柄を表現しています。今までは色をバランスよくばらけさせることで柄を強調してきました。しかし数年前から「色の布」をテーマに、近い色の経糸を用意することで綺麗なグラデーションや深みのある色表現、生地としての奥行を魅力にした生地として製作しています。

ここからは今河織物や木屋太の話ではなく、業界で物づくりをしている一個人としての話になります。

着物の世界には洋服のような型紙がなく「洋服ではデザイナーのイメージに着る人が合わせる」に対して「キモノでは着る人のイメージにキモノを合わせさせる」ように思います。同じ着物と帯でも着る人によって、襦袢衿の見える面積、帯の高さ、小物の合わせ等が異なり印象が大きく変わることがキモノの面白さであり難しさかもしれません。

私の好きな着物の魅力の一つは着姿から感じられる余裕です。景色を眺める余裕、場を楽しむ余裕、四季を感じる余裕、人を思いやる余裕。余裕がある事は自分の事ばかりだけでなく客観的な視点を想像出来るということです。そのような余裕を演出できるコーディネートを想像していくとミニマルでエレガントなキモノを提案していきたいと思うようになりました。

ミニマルというのは余分な物を省くといわれますが「本質を掴む」ということでもあります。ポイントを抑えて着姿をシンプルにしていくと、「色と質感」が大事になります。色々と工夫を重ねてようやく「色と質感と本質」で着姿を作るという形が見えてきました。見えてるだけですけどね…まだまだ頑張ります。

私も悟りを求めているわけではないので、本当の無地ばかりを作ることはないかと思います。今年の4月、5月はゆっくりと考える時間がありました。私が納得するミニマルな着物姿を作れるようになったら、次はどんなものを作りたくなるんだろう。それを考えると「物づくりをしたい!」ワクワクが止まりません。